イスラエル防空の最後の砦?アイアンドームとは一体?

イスラエル防空最後の砦!アイアンドームとは一体?

イスラエルでは多層式防空システムが運用されています。現在も世界を騒がせているイスラエルですが、その立地は過酷なものです。その生い立ちから、周囲の国からは目の敵にされ続け、街には無数のロケットが飛来してきます。 街をロケットやミサイルから守るには防空システムが必須、そしてそんな中、多層防空システムの最後の手段として開発されたのがこのアイアンドームなのです。

実はアイアンドームとはミサイルを指す言葉ではなく、防空システムの名前です。TVなどではアイアンドームという名前のミサイルが使われているような表現をされがちですが、ミサイルの名前は個別にあり、タミルという名称が与えられています。まあ、アイアンドームの方が有名ですし、一般の方からしたらそれで充分な情報ですけどね。

アイアンドームの開発経緯

開発のきっかけは水道管で作られたロケット弾?

2000年代初頭、イスラエル南部はガザ地区から撃ち込まれるロケットに悩まされていました。カッサムロケットと呼ばれるそのロケットは、農業用肥料から火薬を抽出し、水道管を溶接して作られたユニットコスト百ドル程度の手作りロケット弾でした。2006年に勃発した第二次レバノン戦争では、イスラエルはF-16や周辺国に対して圧倒的な力を持つ地上軍を保有していましたが、この安くて大量のロケットの雨を防ぐ手段が無く、街はインフラが破壊され国民の生活も麻痺することとなってしまいます。なぜこのロケットの雨を防げなかったのか、それはイスラエルが保有していた当時の防空システムは弾道ミサイルや巡航ミサイル、航空機を撃破するための高性能高単価の物しかなかったことにあります。これだけのロケットを同時に撃ち落とすシステムも、勿論それだけの数もありませんでした。そこで開発されたのが今までの防空システムから更に短距離向けに開発されたアイアンドームでした。

irondorm ガザ地区からのロケット(右)を迎撃するアイアンドームのタミルミサイル群(左) 出典:Anas Baba AFP

レーザーか、ミサイルか

開発初期、イスラエルの上層部や専門家は、アイアンドームの構想に猛反対していましたRafaelが提出した構想は、現在のアイアンドーム同様、「短距離迎撃ミサイルを複数発同時に管理し、降り注ぐロケットの迎撃を行う」というものでした。しかし上層部などは「数万円程度のロケットに数百万のミサイルを使用しては予算を圧迫してしまう」という意見が多く、更に当時から近い未来、レーザー兵器という低コストで高い命中率を誇る兵器が誕生するだろうと思われていたこともこの流れを加速させました。実際のところアイアンビームは役に立たなかったのでこの時の判断次第ではイスラエルの街は穴だらけだったかもしれません。

ダニー・ゴールド准将の「独断」

ダニー・ゴールド准将はアイアンドーム開発時にイスラエル国防省研究開発局長だった人物です。彼は上記のレーザーかミサイルかで揺れていた上層部の中でも市民を守るにはミサイルしか無いと革新していた人物であり、なんとあろうことか政府や軍の上層部の正式な承認(予算承認)を待たずに、独断でRafaelにアイアンドームの開発を指示し、開発資金を回し始めました普通に激ヤバ人物すぎる まあ・・・結果としてこの独断によってシステムの完成が急速に進み、多くの命が救われたので、彼は今となっては国民や軍内でも英雄として称えられています。もちろん当時は政府の国家監査院などから厳しい対応があったみたいですが(残当)

異常なスピード開発とアメリカの支援

2007年に正式に計画が承認されると、Rafaelがミサイル、ランチャーを担当し、mPrest社がソフトウェアを担当しました。両社は不眠不休での開発に取り組み、通常であれば早くても10年、通常であれば15年以上かかるのが一般的であった防空システム開発を僅か約4年で形にしてしまいました。しかも当時はアメリカもアイアンドーム計画に懐疑的であり、開発に関しては資金提供を行わず、完全なイスラエル単独での開発となっていました。(イスラエルの開発には通常アメリカから結構な頻度で支援がされています) 試験を繰り返し実績を重ねるうちにアメリカも実用性に目をつけ、生産協定において支援することを決定しました。

部品はなんとトイザらス製?!

このスピード開発の裏側にはいろいろな話があります。なんと、開発担当者が息子に買ったトイザらスのラジコンカーの部品を流用したという逸話があります。当時のイスラエルの「使えるものなら何でも使ってやる」という意気込みを感じることができますね。(どっかの国はPS2を買い占めて流用していたような)

「映え」を意識したデザイン

アイアンドームのミサイルランチャーのデザインにも面白い裏話があります。開発者の一人は「使われれば1時間後にはCNNやアルジャジーラで世界中に放送されることが分かっていたので、あえて『超近代的で脅威的』に見えるようにデザインした」と語っています。素晴らしい先見性じゃありませんか?今の日本のミリタリー好きの方にはアイアンドームが稼働しているシーンが好きな方も多いと思います(私ももちろんその一人です)。まんまと踊らされていますが、あのデザインには意図的に作られたプロバガンダ的要素も含まれているのです。

アイアンドームの性能は?

最新の超高度なAIアルゴリズム

アイアンドームの最大のすごさはタミルミサイルによるものではなく、システムの中核であるELM2084多目的レーダー(MMR) 及び Battle management and Weapon control system(BMS・戦闘管理・兵器管制システム)にあります。敵のロケットが発射された瞬間、MMRがそれを捕らえますがBMCは上空の風向きや風速までをも加味したうえでロケット弾の着弾予想地点を計算します。あらかじめ設定されていた地域に落ちるものだけを算出し、タミルを発射することで迎撃、結果として無駄なミサイル発射を防ぎ、更に優先して重要地点を防空することで効率的に迎撃することを実現しています。医療で言うトリアージに近いものでしょうか。 BMSは複数のロケット弾が同時に市街地に向かってきている場合、どの発射機から、どのミサイルを、どの順番で撃つのが最も確実かを瞬時に計算し、ランチャーに発射指令を出します。これによりアイアンドームはその迎撃効率を極限にまで高めているのです。 また、アイアンドームは同一目標に一度に約1秒ほどの差を付けて2発まとめてミサイルを発射します、これにより一発目が外れても二発目で迎撃するという保険をかけています。・・・が、実際は1発だけ発射している映像も多くあり、実際は設定で選べるとのことです。ミサイルに余裕があるうちは2発ごと、飽和攻撃を受け余裕がない時は1発ずつとかで分けているのでしょう。中距離防空システムであるダビデスリングにおいても2発1組で迎撃が行われています。

irondormtest 2021年迎撃テストでの発射シーン。各ランチャーから同時に二発発射していることがわかる 出典:rafael

ELM2084多目的レーダー

上記のレーダーもアイアンドームをアイアンドームたらしめている重要なファクターの一つです。 このレーダーはELTA Systemsの開発したSバンド周波数帯で動作する3次元AESA(アクティブ電子走査アレイ)レーダーです。詳しい解説はまた別の記事でさせていただきますが、簡単に言うと首を振る必要がない凄い技術のレーダーっていう感じです。最近の戦闘機などにも改修などで次々と搭載されています、それくらい革新的な技術です。 このレーダーは1,100個もの目標を補足し、個別にそれがロケットなのか、航空機なのか、ミサイルなのか、はたまた鳥の群れなのかを判別する能力を保有しています。このレーダーなくしてアイアンドームは動きません。 このレーダーはイスラエルの多層防空システムのうち、アイアンドームよりも長い距離を担当するダビデスリングの運用にも使用されています。

radar 地上に配置されたELM2084多目的レーダー 出典:Rafael

タミルミサイルの性能

アイアンドームのメインでもある迎撃ミサイルであるタミル、その性能はどのようなものなものでしょうか? Rafaelが開発したタミル(Tamir)ミサイルの諸元は下記のとおりです。

項目数値
直径160mm
全長300mm
重量11kg(弾頭部)90kg(全体)
最大射程70km
最大射高7,000m
最高速度マッハ2.2
誘導方式DL+IOG+ARH

tamirmissile タミルミサイルの展示品 出典:Rafael タミルミサイルは先述の通りRafael(正式に言うとRafael Advanced Defense Systems)によって開発されたミサイルです。部品の大部分はアメリカのRaytheon社に依存しており、輸入した部品を組み立ててタミルを製造しています。 ユニットコストは1発あたり4~5万ドルに抑えられており、重要目標であったコストカットをしっかりと達成しています。

シーカーや誘導方式について

タミルは発射後、BMCから暗号化されたDL方式によって目標付近まで誘導され、終末誘導ではARH方式でシーカーが補足した目標へ向かいます。 このシーカーはソフトウェア定義レーダーという技術が使われており、ある程度のアップデートをシーカー本体を取り替えずとも行えるとされています。ソフトウェアのアップデートのみでジャミングに対応したり、シーカーの挙動を最適化することが可能になります。 このシーカーは非常に優秀であり、後に空対空ミサイルであるI-Derby ERのシーカーとして逆輸入されています

TVCは非搭載

ミサイルの高機動を実現するために採用されることのあるTVC(Thurst Vectoring Control:推力変更装置)、及びサイドスラスターはタミルにおいては採用されていません。先述の通りアイアンドームの重要目標にはコストカットが含まれており、TVCの機構を組み込んだ場合製造コストが跳ね上がることになります。TVCが無い代わりに前方に配置された4枚の小型カナードと後部の安定翼を使って、純粋な空力制御のみで誘導を行います。タミルはSAMの中では小型に分類されるため、これらを搭載しなくてもある程度の機動性能は実現することが出来ています。

irondormtest 2021年のアイアンドームの迎撃テストにて 出典:rafael

ブースター

タミルのブースターは単段式の固体燃料ロケットブースターを採用しています。固体燃料は液体燃料に対して即応性や保管運用コストにおいて優れています。液体燃料は出力調整が可能というメリットがありますが、配管などが複雑になり繰り返しになりますがコストカットの目標の妨げとなります。そこでRafaelは工夫をこらすことで両者のいいところ取りを実現しています。 ブースターは単段式であり、途中で切り離しなどを行わないタイプですが、その内部には精巧に計算されたグレイン設計が取り込まれています。 固体燃料であるにも関わらず、内部の固形燃料の断面形状を計算することで、燃焼ペースを可変することが可能になり、一つのブースター内で加速フェーズと速度維持フェースという2つの異なる燃焼フェーズを実現しています。 加速フェーズは発射直後のフェーズであり、燃料の燃焼ペースが最大になるように設計されています。これによりランチャーから飛び出した直後、重力に逆らって一定の間加速を続けます。 速度維持フェーズでは燃料の燃焼ペースが下がり、その代わりに長い間燃焼を続けることが可能になります。

irondorm 発射後速度維持フェーズに入りブースターを点火し続けるタミルミサイル 出典:Rafael

少し話がそれますが、ミサイルというのは航空機のように常にブースター(エンジン)で推進されているわけではなく、一定の燃料を使い切ったら残りは慣性によって飛び続けます、そのためブースターが切れた後は速度が下がり続けるだけですが長い間ブースターを点火できるミサイルというのは結果的に長射程を実現することが可能になります。仮に最高速度がマッハ4のミサイルがあっても、ブースターの点火時間が短く、そのマッハ4を実現できる時間が極端に短い場合、マッハ2でも長時間点火し続けることが出来るミサイルのほうが平均速度は高くなり、目標への到達時間も短くなる場合があるというわけです。ここの選択はミサイルの想定される目標によって変わってきます。加速フェーズの後一旦ブースターをシャットダウンし、ある程度したら再点火することで終末機動力を高めるデュアルパルスモーターという技術が最近開発されたりもしています。

タミルでは固形燃料でありながらこのように燃焼ペースを調整することにより、長時間のブースター燃焼を実現することが可能となりました。固形燃料は燃焼ペースを調整することが難しい燃料であり、このように可変ペースで燃焼させる技術というのは非常に高度なものであると言えますね。

irondorm irondorm ターゲットに命中直前と命中時のタミルミサイル。ブースターが切れており、慣性によって飛行をしていたことがわかる。 出典:Rafael

もちろん目標はロケットだけではない

アイアンドームが目標とするものにはロケットだけでなく、巡航ミサイルや航空機、そして昨今有名となっているドローンまで迎撃が可能です。2021年の迎撃テストにおいてもドローンを同時に複数機迎撃することに成功しており、ロケットだけでなくドローンや航空機、低速の巡航ミサイルであれば迎撃することが十分に可能であることが証明されています。

irondorm ドローンの迎撃テストに成功した場面。命中時にもブースターが点火し続けており慣性飛行ではないことがわかる。 出典:Rafael

飽和攻撃には・・・?

アイアンドームは日本のマスコミだけでなくCNNのような世界規模のマスコミにおいても大々的に報道されています。それによってアイアンドーム神話のようなものが誕生し、アイアンドームは完全無敵のような風潮が見られます。しかし2026年の3月中旬頃に行われたイランによる弾道、巡航ミサイルによる飽和攻撃によりイスラエルの多層防空システムが突破されたという報道や映像も多く出回っています。極超音速弾道ミサイルに対する対応能力はアインドームにないということと、巡航ミサイルであろうと数百、数千発レベルのミサイルによる飽和攻撃が行われればアイアンドームであろうと突破されてしまうのは仕方がないことかもしれません。

まとめ

アイアンドームはイスラエルの多層防空システムを構成する最後の砦です。ここが突破されればすなわちイスラエルの領土に攻撃が降り注ぐことを意味します。それだけに力を入れて開発されたこの兵器はイスラエルでは当然のこと、アメリカやオーストラリア、アゼルバイジャンやインドといった多くの国で興味を引き、中には運用を決定した国もあります。海軍型も開発されていたり、SAMとして盤石な評価を得ていることは間違いありません。この度の戦争で再び着目を浴びたアイアンドーム、再び世界で注目される日が来ることは望みませんが、イスラエルが開発したこの傑作はイスラエルの国土を守り続けることでしょう。

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