ドイツ軍の誇る最新MBT、レオパルド2A8は果たして本当に最強なのか?
まずレオパルド2A8とはなにか?
レオパルド2といえば、現代MBTに於いて強いシェアを誇るシリーズであることは皆様もご存知でしょう。拡張性に優れ、現在では2A8系列までそのパターンを増やし続けてきました。世間一般の評価において、レオパルド2というMBTはアメリカのエイブラムスシリーズに並ぶほどの知名度や評価を得ていると感じます。KNDS(KMWとNexterの合弁会社、簡単に言えばレオパシリーズを開発製造していた会社が色々あって変身した姿です。今回ここの詳細は省きます)も2A8には相当の自信を持っているようで、情報の発信は多岐にわたります。
ですが、果たしてその評価は正しいでしょうか?単体の評価と、軍全体からみた時の評価は別物ではありますが、今回はその両者の視点からこのレオパルド2A8を評価していこうと思います。レオパルド2シリーズを1から解説しては量がとんでもないことになるので、今回はあくまでレオパルド2A8の記事とします。
出典:KNDS
レオパルド2A8は、2A7Vからのマイナーチェンジ【ではない】
✅Trophy APSの搭載
レオパルド2A8が前身である2A7Vから強化された点でよく知られている点にはトロフィーAPSの搭載が挙げられます。このAPSの搭載自体は2A7シリーズのひとつ、レオパルド2A7A1において試験的に改修が施されています。2A8ではこの2A7A1においてKNDSが得られたデータを下にAPSの搭載が最適化されています。死角の削減や、なによりも後付であり配線や冷却効率に問題のあった2A7A1から、APSの搭載を前提とし再設計された砲塔を持つ2A8への進化は、よりAPSを効率よく使用できることを意味しています。(APSの保守管理に予算が回ればの話ですが・・・)
2A7に搭載されたAPSが見えます
出典:EuroTrophy
✅強化されたデジタル機器
私が個人的に最も強化されたと感じるポイントは、APSの搭載ではなく、この戦車が搭載する最新のデジタル機器です。2A8にはHENSOLDT社製のATTICAシリーズが搭載されています(ATTICAの由来はわかりません・・・地名ですかね?情報あったら提供お願いします)。砲手用サイトシステムがATTICA GL Digitalに換装され、サーマルサイトにおける視認性が格段に向上しています。車長用ハッチサイトPERI RTWL Digitalは2A7Vから搭載されていますが、こちらも後述の理由から2A8ではより効率的に使用できるようになっていると思われます。このATTICAシリーズは別の記事でもまとめたいと思いますが、簡単に説明するとデュアル波長という技術とAI連携における自動目標探知追尾機能が付与されたヤバいFCSという認識でいいと思います(雑)
MWIR(中波長赤外線)とLWIR(長波長赤外線)、これらのうちどちらかを採用した熱源画像装置が今まで一般的でしたが、ATTICAシリーズではこれら両方の波長を同時に併せて熱源画像を映し出すことが可能になりました。この技術によって対赤外線能力を持つ煙幕や、豪雨、砂嵐、濃霧といった視界ゼロに近い天候に対しても強い耐性を持つという凄じい性能を持っていると想定されます(ここはヘンゾルト社から開示されている情報及び理論上からの推測です)。 このシステムはフルHD画質の16:9比率で画像を映し出すそうです。
AIによる自動目標検知は文字の通りで、映し出されている画像から自動でAIがシルエットを認識し、砲手がサイトとにらめっこしていちいち探し出す今までと比べて、目標設定から発射までのプロセスを短縮することが可能になったそうです。すごい。
強化されたBMS(戦場情報管理システム)
更に2A8ではC4Iとは別に組み込まれているBMS(戦場情報管理システム)が強化されています。
ハードウェア面で言えば、2A8ではアナログ配線やスイッチの数を大幅に削減することに成功しているそうで、操縦、操作の簡略化にも尽力が施されたということです。大量のスイッチが並んでいた部分にはモニターが並んでいるのでしょうか。砲塔内写真が手に入れば嬉しいですが、流石にそれは軍事機密に触れるだろうとは思いますので・・・。
BMSのソフトウェア面ですが、こちらはD-LBO計画(ドイツ連邦軍が進めている地上軍デジタル化計画)に沿ってデンマークにあるSystematic社のSitaWareFrontlineシステムが継続して採用されています。現時点でドイツ軍においてこれを上回るBMSは存在しません。既存の車両にこのシステムを搭載するよう更新する作業は停滞していますが
ソフトウェア面のこれらの部分は2A7Vの時点で搭載されていたものですが、2A8になって強化されたのはAPSと連携が施されている点にあります。2A8では、APSが作動した際にどこから狙われたのかというデータが即座に部隊全体に共有され、即座に他の味方がカバーに入ることが可能になっているとされています。2A7A1ではAPSは改修によって増設されたものであり、ソフトウェア面においてここまでの機能が施されていた可能性は0に近いと思われます。実際2A7A1においてこの機能が実現されていたという情報は見つけることが出来ませんでした。
出典:Systematic
他にも味方の位置情報追跡機能などもありますが、そこまで解説しては脱線してしまうのでまた別の記事にて紹介したいと思います。
新素材を採用した装甲
2A7Vなどでも2A6に比べ大幅に装甲強化が行われていましたが、2A8においては更にレベルの高い改修が施されています。装甲の厚みを増すだけではなく、複合装甲を構成する素材そのものが大幅に変更されています。材質の変更は、代表的なものでは2A4シリーズから2A5シリーズへ改修された際に行われたものがありますが、2A8においても同様の改良が行われています。複合素材の構成は軍事機密の中でもトップオブトップですので、その中身まではわかりませんが、同様の厚さで比較しても2A7から強化されているのは確実です。
他にも防御面では単純な厚さだけではなくさまざまな面で強化がされています。
トップアタックに対する強化
ウクライナにおける戦争でドローンがもたらした影響は計り知れないものです。2A8では2A7から更に天板が強化され、対ドローン能力が強化されています。APSにも対ドローン能力が付与されている為、ウクライナの戦争においてもたらされた影響が濃く出ていますね。
モジュール装甲の採用
単純な装甲強化だけでなく、2A8では専用のモジュール装甲パッケージがKNDSによって用意されています。2A5で砲塔前面に追加された楔形装甲もモジュール装甲ではありますが、2A8ではそれ以外の部分にも採用されています。個人的に少し気になるものがあったので、後述します。
計算された配置
APSは被弾時に破片などによってセンサーが破壊されないよう、その配置には緻密な計算が施され、直接の被弾でない限り、極力能力喪失をしない配置になっているとのことです。
対MBT決闘用追加装甲?
上記で個人的に気になると言っていた部分のお話ですが、2A8に対してKNDSはモジュール装甲を何パターンか用意しています。今までも市街地戦を想定し、対CE能力や機銃などを主に強化したレオパルド2PSO(平和維持活動仕様という名の市街地戦キット)や2A6に地雷防御強化が施された2A6M、増加装甲(モジュール装甲)に力を入れたスウェーデンのStridsvagn 122や2A6HELなど、これら同様にさまざまなものを2A8用に開発されています。対地雷強化や、対IED強化などはどの戦車でもある話なので目新しさはありませんが、2A8ではDuel protection kit against MBT、直訳すると対MBT決闘用追加装甲というパッケージが用意されていることにあります。KNDSに合弁される以前からKMWは決闘状況における能力を重視していた節はありますが、ここまで明確な言葉で対MBTを重視した増加装甲を用意すると公表された事はありませんでした。
今まで増加装甲として用意されていたのは、基本的に対CE(対化学エネルギー、つまりRPGのような携行式対戦車兵器に対すること)を強化することが多く、対KE(対物理エネルギー、つまりAPFSDSのような徹甲弾に対すること)まで重視されたものはほとんどありません(ロシアはコンタークト5やレリークトERAで実質対KE能力を上げていますが・・・)。KNDSが公開した文書の中でもたった一文しかない情報ですが、MBTとの決闘用というくらいですから正面に対して付与するモジュール装甲なのではないかと想像しています。側面にオプション程度の装甲を付与しても現代の徹甲弾には意味がありません、そして2A8の砲塔正面にはAPSのセンサー類が搭載されており、これらの配線のことを考えると砲塔正面に追加装甲を搭載し、センサーを改めて増加装甲の前に取り付け直すという無駄すぎることはしないと考えられます(これは交換しやすさや取り付けやすさが取り柄のモジュール装甲のメリットを潰す行為です)。
これらを踏えると2A8には世間一般で言われているような評価以上の防御力を持っているのではないかと推測できますね。
この写真から見えるように、砲塔正面にはセンサーが固定されています。ここに追加装甲を付与することは現実的ではありません。
足回り、エンジンの改良
あれも!これも!それも!と改良に改良を加えられている2A8ですが、当然待ち受けるのは重量増加と消費電力の増加というデメリットです。デジタル化に伴い素材の軽量化なども行われていますが、それ以上に追加されたものが多すぎます。何よりも消費電力の増加は致命的な代償と言えます。2A8では砲弾や燃料を除いた素の重量が64トン前後に、モジュール装甲や戦闘に必要なものを搭載すればそれは更に多くなり70トン弱になるとされています。エンジン本体に関してはシリーズを通して搭載されている、有名なMTU MB 873 Ka-501が搭載されており、よく1,600馬力に強化されたと言われていますが単純な出力は引き続き1,500馬力です。これは製造元のMTUにおいても仕様変更がされていない為、ほぼ確実でしょう。代わりにトランスミッションが改良されたことで重量増加をなるべく打ち消すようにされているとのことです。
搭載されているMTU MB873Ka-501エンジン 出典:MTU Friedrichshafen
消費電力の配分装置
そして後者、消費電力の増加という代償に対しては非常に現代的な解決策を用意しています。Thales社が開発したSSPDB(直訳すると高出力電源分配ソリッドステート?)というシステムを新たに搭載しており、これは電力管理を司るシステムです。戦闘中に電力が不足しそうになった場合、このシステムは自動的に今の状況に不要な電力、例えばエアコンや照明、非使用中の通信機器などを瞬時にオフにします。戦闘中に絶対に落としてはならない砲塔旋回モーターやFCS全般、そしてAPS、これらに最優先で電力を回すことでシステムダウンを防ぎます。すごすぎる。
他にも単純な解決策も取られています。大容量コンデンサを搭載しており、バッテリーが一瞬の間に大量の電力を放出、充電できるように強化されています。一度にシステム全体を酷使すると電圧が下がり、システムが再起動してしまう危険性があるため、こういった改良も必須だったのでしょう。
20kWの発電能力を持つ新型APU
そして発電機能をそもそも強化することでも解決が図られています。20kWの発電能力を持つAPU(補助動力装置)を搭載することで、この莫大な電力の消費をカバーしています。アイドリングでは燃料消費が激しく、燃料がもったいないという理由でAPUが搭載され、停車時の燃料消費を抑えられましたが、2A8ではその莫大な電力消費を賄うために20kW級のAPUが搭載されました。これはM1A2SEPv3(エイブラムスの最新型)に搭載されたAPUが発揮する10kWの実に二倍に匹敵します。ヤバ。
そもそもなぜこれだけの電力消費がされるのか、それはシステムが増えたことだけではなく、それを維持するためのクーラーが大きいとされています。言ってしまえばこれだけの電子機器を搭載した戦車というのは、爆音PCのケース内のようなものです。冷やさなければ機械が熱暴走を起こし、システムが落ちてしまいます。クーラーだけで実に6kW消費されているらしく・・・むしろ中は夏でも寒そうですね。そして当然FCSや20トンをゆうに超える砲塔の駆動といった射撃関係にも12kWほどの電力が。その他のNBC防護や通信などの機能で4kWほどが消費されるとのことですから、これだけでも最大消費をすれば20kWを超えてしまうので、そういうときのためのSSPDBなのでしょうね。
しかし高性能の代償は当然・・・
と、ここまでで2A8が2A7からまったく生まれ変わった存在であることがわかっていただけたかと思います。KNDSが自信を表すに値するだけの性能は間違いなくあるでしょう。単体の性能で見れば、間違いなく世界最強候補の一角です。
???「なるほど完璧な車両っスねーっ。代償に目をつぶればよぉ~~~!」
当然、これだけ最強最強最強を目指してなんでもかんでも実現してしまった戦車にはそれ相応の代償が存在します。 すでにそこそこ長くなってしまったので、【2A8代償編】を別の記事ではまとめますヨ。